ちょうどいいので結婚します
 いつまで経っても手に乗らない書類に疑問に思ったのか功至は顔を上げた。目の前に立っている千幸にパチパチと何度か瞬きをすると、千幸の手に何もない事に気づき、今度は視線を動かし、フロアを確認した。

「二人……です」
「そうみたいだね。何か用事?」
 千幸はそう言われてしまえばますます言葉が出てこなくなってしまった。何も言わない千幸に、功至は「あ、そうか」と小さく溢した。
「仕事じゃないいってことですね。どうしました?」

 功至の表情は一瞬にして柔らかいものになった。千幸はそれに少しばかりホッとしてやっと口を開くことが出来た。

「今日、元気がないようでしたので……し、心配で!」

 功至の目が、驚きで見開かれ、ばつが悪そうに視線を外すと、手で顔を覆ってしまった。

「……俺、態度に出てましたか」
 功至のこの言い方に千幸は本当に機嫌が悪かったのだと知った。
「ええ、そんな気にするほどでは」
 功至は「情けないな」と溢すと顔を上げた。
「ええ、《《気にするほどでは》》ありませんよ」

 と、取り繕ったように笑顔を向けた。千幸の知ってるいつもの笑顔だった。この瞬間、千幸の胸がスッと冷えた。功至に何か悩みや嫌なことがあったなら、自分が慰めて元気になって欲しいと思っていた。だが、功至の態度からそれが思い上がりであると気がついたのだ。
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