ちょうどいいので結婚します
 自分では役不足だと思った。功至は、千幸に機嫌が悪くなった原因を言うつもりはないのだ。慰める、だとか、癒やすだとか、そんなことは自分では無理なのだと気づいた。

 かあっと顔が熱くなるのを感じた。すごく自惚れていたと気づいた。千幸も笑顔を作るしかなかった。

「さあ、俺たちも帰りますか。週初めに頑張り過ぎるのもなんですし」
「あ、はい」

 千幸はデスクに戻ると明日で間に合う仕事を手早に一纏めにした。この後は当然、功至と一緒に帰るものだと思っていた。食事もして……と。ふと、顔を上げるとそこに多華子がいて、功至と千幸の顔を交互に見ると
「あ、帰るのね。じゃあ、明日で」
 直ぐに踵を返した。千幸は多華子のその態度にここへは仕事で来たのではないのだと推測した。そうだとしたら、自分の前で出来ない話なのだろうか。

 功至がちらりと千幸に目を向ける。それから多華子を呼び止めた。
「いや、今から飯食って帰るだけだし、預かるぞ?」

 千幸は自分は《《どちらにも》》気を使われたのだと思った。
「あの、私はもう帰りますので、どうぞ」
 千幸がそう言うと、多華子は慌てて言った。
「いえいえ、全然、明日でいいので。すみません。一柳くんもごめんね。二人で食事行くんでしょ? じゃあ、お疲れ様です」

 千幸は自分のせいだと思い、フロアから出て行く多華子に、早く何とかしないとと焦ってしまった。
「待って! 石川さん! 」

 多華子の驚いた顔がそこにあった。

「石川さんも一緒にどうですか?」

 呼び止め、誘ってしまったのだ。
 
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