ちょうどいいので結婚します
 多華子は頑なに頷かなかったし、功至も千幸が多華子を食事に誘うことに好意的ではなかった。

 最終的には千幸の熱心な《《勧誘》》に多華子が折れることになった。千幸は部のパソコンが切れているか確認してまわった。経理のパソコンは強制シャットダウンがされる仕組みになっていなかった。

「やだ」
 功至の様子に気を取られていたせいか、自分のパソコンが開きっぱなしになっていた。ふと、デスクに伝票が二枚置かれていて、誰かが置いて行ったのか、自分が入力後に放置したのか記憶が曖昧だった。作業にして五分もかからない確認作業だった。
「すみません、これだけ確認したいので先に行ってていただけますか?」
「時間かかるなら、俺も手伝うよ」
「いえ、入力したか確認するだけです」
「じゃあ、ここで待ってます」
 そう言われたが、自分の横で二人が立って見ながら待っているのは、緊張してしまうのと、失態を見せたくない千幸は断り二人を先に促した。

 実際作業はすぐに終わり、千幸はサッと手鏡で身だしなみを確認すると二人を追いかけた。幸いすぐに二人の背中が見えた。二人は仲よさそうに談笑していた。

「お前、彼女に変な事言うなよ」
「変な事って例えば? あんたの本性とか?」
「そ。知られたら、どうなるんだろな」

 会話が聞こえてきて、千幸は声をかけるのを躊躇った。そうこうしてるうちに二人は角を曲がってしまった。
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