ちょうどいいので結婚します
千幸(ちゅき)ちゃんあいつには心許してる!」
「そりゃ、親戚レベルの人でしょ、まだまだこれからよ」
「俺も千幸(ちゅき)ちゃんとランチ行きたい!」
「行きましょう、行きましょう、もういいじゃない、気遣いなんて」

 功至の愚痴を多華子はひとつひとつ拾ってフォローしていった。
「あいつ、弁護士だって。何それ何それ、弁護士って、文系最高峰じゃん。イケメンで弁護士! ずるい!」
「落ち着いて。アンタも。アンタも負けてないから。ね?」
「背も高かった!」
「うーん、一緒くらいに見えたけど」
 多華子は功至の子供っぽい物言いにふき出しながらなだめた。
「無造作な髪形なのにカッコよかった! 俺があの髪形したらクソダサ不潔に見える」
「もう、何もかもが負けてる気がしてきちゃってるのね」
「俺だってもっと千幸(ちゅき)ちゃんと喋りたい!」
 多華子はうーんと言ったあと功至に疑問をぶつけた。

「さっき、何でって思ったんだけど、どうして一柳くん仕事中は小宮山さんにタメ語で喋ってんのに、仕事終わると敬語で喋ってんの? それだから距離ができるんじゃないの?」

 功至はむぅ、と口ごもり
「見失っててんだよ。見失ったの! 」
 と、白状した。

「つまり、最初、惚れてすぐにガンガン話しかけすぎて引かれたのを未だに引きずってる。という見解でいい?」

 功至は観念したように頷いた。
「傷つけたくないんだよ。千幸(ちゅき)ちゃん、嫌って言えないし、怖がらせたくない。もし、このチャンス逃したらもう一生彼女を失うことになるだろ」
「そっか。確かに、彼女繊細で不器用だものね」

 多華子の言葉は功至の受け売りではあったが、事実でもあった。功至は千幸を大切に思い過ぎていた。
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