ちょうどいいので結婚します
 ――その後

 功至は千幸にスケジュールを共有してくれた。結婚へ事細かに予定を入れていた。千幸の意見も尊重してか、入籍する候補日はたった3ヶ月の間に10日以上もあった。

 
 千幸は、功至が結婚を決めたのが、千幸が先に頷いた事とちょうどいい条件だけだったとしても、ゆるく繋いだ手と、たった一度の(つたな)いキス。それだけの微々たる甘さに深みにはまったように抜け出せないでいた。

 功至の態度に誠実さと優しさは伝わっていたが、結婚が決まった時から期待していた甘さは僅かばかりもないと感じていた。

 自分は愛されて結婚するのではない。そんなことは最初からわかっていた。だけど、少しくらいは期待した。まさか、断われなかったからだとは思いもしなかった。

 それどころか、もしかすると、本当は……功至は多華子と結婚したかったのではないか。

 千幸はそう思うようになり、二人並んだ姿が頭から離れなかった。そして、こんな胸の内を誰にも打ち明けられずにいた。

 言葉にすると、自分が惨めで悲しくなるからだ。いや、違う。それ以上に
「良ちゃんに言っても、さゆに言っても、そんな結婚やめておけって言うもの」

 千幸は功至が断らないことだけが頼りで、功至との結婚を諦めきれずにいた。

「功至さんが、断われないのを知っていて推し進める私は、なんてずるいんだろう」

 そうは思っても、いつか自分に振り向いてはくれないだろうか。そう思わずにはいられなかった。
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