ちょうどいいので結婚します
 功至は、自室でタブレットを睨め付けていた。

 サクサク進めたいスケジュールが年末年始のせいでどうしても滞ってしまうのだ。

 自分と千幸の予定だけならなんとかなる。両家にそれぞれ別の日に挨拶に行って、顔合わせはまだ別日程。それだけでも随分時間がかかる。加えて、数カ月後なんて、式場の予約がほぼ埋まっているのだ。見学の予約さえなかなか取れずにいた。

 おかげで独立準備だけが順調だった。

「ああ、もう! こんなことさえ足止めされてる気分だ!」

 マグカップを乱暴に置いてしまい、中の紅茶が溢れ、ますます憂鬱な気持ちにさせた。功至を憂鬱な気持ちにさせているのは、予約の埋まった式場でも、マグカップから溢れた紅茶でもなかった。

 煮え切らない千幸の態度だった。世のカップルは結婚準備で喧嘩すると言うが、喧嘩出来るならまだ良かった。

 功至が何を言ってもどこか他人事の様で、「それでいい」と言うばかりだった。最初は単に遠慮しているのかと思ったが、功至が敬語を取り払って距離を縮めても、また丁寧に話してもどこか隔たりを感じた。

 以前より距離が出来ていた。

「嫌なのかな、俺と結婚するの」

 次は家に泊まっていいかと聞いたのは千幸なのに、まだそれは実現されていなかった。

「マリッジブルー……な、わけないよな」

 功至の脳裏にちらちらと良一の姿が浮かび、追い払うように頭を振った。

「このままじゃ、駄目だ」

 功至はスマホを掴むと千幸にメッセージを送った。
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