ちょうどいいので結婚します

『話があるので、今週時間作って下さい』

　功至からメッセージが来たのはそれからすぐの事だった。核心にせまるような会話を避けていた千幸にとって、それはまるで死刑宣告のようだった。

　――季節は冬、12月半ば。街路樹の銀杏は枝にわずかに葉を残すばかりになっていた。

　千幸は功至が自分との結婚に乗り気ではなかったと知った日から、職場でも功至をよく見ていた。それはただの片思いの時のように憧憬に満ちた視線ではなく、観察や洞察と類のものだった。

　功至は、人当たりがいい。きつい言い方もしないし、立場を掲げて高圧的に話したりもしない。雑談中に軽口でからかわれたりしてもうまくあしらっている。そういう所も憧れずにはいられなかった一つである。誰とでも気さくに話せて仲が良い。だが、その中でも多華子は別格だった。部署が違う、それに功至は中途採用だ。それなのにあそこまで仲が良いのはなぜだろうか。多華子といる功至はまるで……いい意味で無邪気で自然体だった。少なくとも千幸の目にはそう映った。

　感情を殺して直視すると、見えて来るものがあった。それが例え、見たくないものだとしても。

　功至は職場での方が千幸に自然体だった。話すのは業務の一言二言であるが、皆と同じように接してくれた。ただ、時折何か言いたげな視線を千幸に寄越していた。功至もわかっているのだろう。本当はこの結婚が間違っているという事を。千幸はそうは思っても功至に自分からは言い出せないでいた。