ちょうどいいので結婚します
『そういうのもあって一柳くんと結婚話がでたのかもね』

 まさにその通りだった。
「彼女は以前にも見合い話はなかったのか?」
「ああ。本人が結婚する気がないと頑なに拒否していたみたいだな。資格取得も一人で生きていく準備かと心配してたが、なぁに実家の財力や男の財力に頼らず生きていくつもりだったなんて、素晴らしい考えじゃないか。だが、お前との話は受けたわけだし、お前の事は悪からず思っていたのだろう。実際うまく行ってるんだろう? 全くもって何もかもちょうど良かった。こういうのを良縁というのだ」
「なるほど」

 功至は納得した。そこから、勇太郎の言葉が頭に入ってこなくなり、空返事を続けた。

 帰り道はどうやって帰って来たのかわからないくらいだった。ただ、勇太郎には何とか笑顔を向けて別れを告げることは出来た。母親がいなくて幸いだった。あんなに喜んでいる親を不安にさせたくはない。

 させたくはないのに、自分はこれから親不孝をしてしまうかもしれない。

「気付いてしまったかもしれない」

 功至はバンッと壁に身を預けるとずるずると座り込んだ。気づいてしまったかもしれない。もう一度繰り返した。

「結婚する気がない? それって……断り文句だよな」
 功至は自分がそうであった。結婚する気がない。そう言っておけば、条件や相手を変えて勧められることがないのではないかという体のいい断り文句だった。自分はなぜ見合いを断っていたか。千幸を好きだったからだ。千幸も同じ理由だとすれば、千幸も誰か想う人がいたのではないか。
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