ちょうどいいので結婚します
「最終日は経理に譲るから」という名分で最終日を一日残して、この日、部署ミックス、つまり有志メンバーで功至の送別会が行われた。

 こんな時でさえ、集合したメンバーに千幸の姿を探す自分を戒めた。当たり前に千幸の姿をさがすことはもう功至の習慣の一つだった。はぁ、と吐いたため息は外の空気に白く現れて消えて行った。

「つか、経理は最終日だっつの」
 来てくれるか知らないけど。我ながら悲観的だと苦笑いする。

「ちょっと、一柳さーん。一人で笑ってないで、こっちこっち。主役なんですから」
「笑っ、ってた? 俺」
「はい。一人で」
「ああそう」
「はい、あっちの奥のお誕生日席座って」

 功至は促されるままに席に着いた。……賑やかだ。経理部も功至が入社した当時に比べればかなり明るくはなったが、こういった他の部と触れ合うと根本的な違いを感じる。経理は静かだ。と、ついまた千幸の事を思い頭から振り払って場を楽しむことにした。

 気が紛れていいかもしれない。賑やかな空気はそう思わせてくれた。次から次へと誰かしら話しかけてくるので余計な思考に囚われずに済んでいた。

「これからどうするんですか?」
 と判を押したように同じ質問ばかりで、いっそ皆に聞こえるように大声で答えてやろうかと思った。
「彼女いないですよね?」
 と聞かれた時はもう一度落ち込むことになった。笑顔で取り繕うしかなく、「さぁ」なんてぼやかして答える自分の往生際の悪さに八つ当たりだけはしないように心掛けた。
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