ちょうどいいので結婚します
「一柳くん」
 次に隣に来た顔を見るとホッとした。多華子だった。

「なんだ、石川もいたのか」
「……。アンタ、今日のメンバー全然見てないでしょ。私にも気づかないなんて」
「あー……ああ。ごめん」
「ずーっと、心ここにあらずね」
「うん……。心ずっと千幸(ちゅき)ちゃんでね」
 功至は力なく笑った。
「もう、誰がうまい事言えと。あー……意味ないと思うけど一応言うわね。この飲み会は送別会という名目で、一柳くんと喋ってみたい子から、本気で狙ってる子までの集まりだから」
「へえ」
 と、興味のない相槌を功至は打った。多華子はそれをわかってたとばかりにため息を吐く。
「うん。こんなにモテてんのよーって言いたかったんだけど、千幸(ちゅき)ちゃん以外興味ないわよね。少しは前向きになれるかと、私もこの飲み会の提案受けたんだけど、楽しめないわよね、ごめん」
「や、賑やかなのに救われてる」
「うん、そっか。一柳くんに『彼女いるか』のリサーチを事前に私にしてくる子が多くて『知らない』って言っておいたわよ。とにかくその彼女が私ではないとわかったら、こんな人数集まっちゃった」
「こんな人数いても……」
 功至はそこで言葉を止めた。これが自分を悪からず思ってる人たちで、そこに千幸がいないのが虚しかった。多華子は功至の心情を悟り、少し声のトーンを下げた。

「ね、本当にもう彼女とは終わったの? 」

 功至は微かな笑みを浮かべた。
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