ちょうどいいので結婚します
「な、どうしたんだ。おい、石川?」

 多華子は怒りで今にも泣きそうな目を功至に向けた。

「負けてない」
「え、え?」
「一柳くんだって負けてないよ!」

 急に大きな声で言われ功至は戸惑った。

「そ、そりゃどうも」
「負けてないじゃない。一柳くん、彼女への気持ちだけは絶対にあの人に負けてない! そうでしょ!?」

 功至は、対面にいる良一の方へ視線を走らせた。良一が抱きかかえるように一緒にいる女性は……千幸では無かった。

「そうだ、絶対、俺の方が、彼女を愛している」
 言うより早く功至は良一の方へと駆け出していた。

 多華子は自分がけしかけたものの、傷害事件でも起こされたら相手は弁護士だ、まずい。と、功至よりは冷静に、良一の方へと向かう功至を追いかけた。

 功至が目の前に立つと、良一は
「へえ」と顔を歪めて笑ったあと、「何か御用ですか?」と酔った女性を手荒に支えるという行動とは反した爽やかな顔で笑ってみせた。いや、その手荒さがかえって二人の親密さを匂わせた。

 功至の後ろに多華子が到着すると、酔った女が「誰」と不躾に聞いた。それをどう説明したかは功至には聞こえなかったが、女は酔っているせいか、遠慮なく功至をジロジロと見た。
「へぇ、イケメン! あ、でもお姉さんも綺麗だね」
 と多華子にも言って、功至はますます苛立っていた。

「どういう事ですか?」
 せめて挑発には乗らないように功至は丁寧な言葉と態度を心掛けた。多華子がそれに少し緊張を解いたようだった。
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