ちょうどいいので結婚します
　千幸は咲由美の恋人だと思っていた男性が功至だったことに声も出せないほど驚いた。

　良一と咲由美が功至と話しているらしいと分かり、二人が功至に変な事を言ったのではないかと肝が冷えた。慌てて止めようとしたが、功至の後ろに多華子がいることに気が付くと体が動かなくなってしまった。功至は多華子とデートの帰りだろうかと、自分はもう功至とは無関係であるのに邪推してしまった。功至も多華子も幸い千幸に気が付いていないようだった。

「お兄さん！」
　その空気を打破したのは、咲由美の恋人らしい男性の声だった。

「あぁ、たぁくんだぁ」
　と、咲由美が鼻にかかった声をだした。

「ごめん、こんなんで。本当にいいの？」
　良一が申し訳なさそうにその男に咲由美を差し出した。咲由美は遠慮なくたぁくんと呼んだ男の首にしがみついた。

「はい。家で寝かせます。酔っ払いでもなんでも一緒にいる時間が増える方が嬉しいので。さゆ、歩ける？」
「うん。ごめんねぇ」
「申し訳ない。お願いします」
「いえ、お兄さん、また改めて。今日は失礼します」
　去って行く二人に千幸が慌てて礼を言った。

「ごめんなさい、たぁくんさん。私のせいで飲ませ過ぎてしまって」
　咲由美の恋人は千幸に人なつっこい笑顔をむけた。
「いーよ、いーよ。さゆから話は聞いてたし。ちーちゃんのミラクルな結婚話にさゆも浮かれたんだと思う。ちーちゃんもまた改めて。あ、結婚おめでとう！　じゃあね」

　功至は急に現れた千幸に目をパチパチさせていた。
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