ちょうどいいので結婚します
バチッと千幸と目が合うと、すっと逸らされてしまった。嫌だったかと思っていると、もう一度そおっと功至の方を向き、はにかむように笑顔を向けた。

功至はその瞬間、胸にドンと何かか落ちて来たような衝撃を受け、恥ずかしくてたまらなくなった。

普段笑わない人の特別な笑顔に胸が高鳴った。それからずっと、千幸に自分を意識して欲しいと思うようになったのだ。

「……あの一回だけだな、普通に誘えたのは」
功至は自分の部屋の天井を見ながら過去の栄光を振り返っていた。

それでも功至は、最初の頃は千幸に話しかけたくて仕方がなく必要以上に話しかけていたように思う。それを思い出すと一人赤面するのだが、まだ今よりは普通と言えるくらいに接する事が出来ていた。

功至が見る限り、千幸は人に嫌だと言えない性格なようだった。特に功至には、何か仕事で話しかけてもビクリと肩を震わせ、構えられてしまう。元々人と話すのは苦手なようだが、それでも功至は一番苦手とされているのがわかった。

怖がらせたいわけじゃなかった。でも自分の必要以上に話しかけたことが千幸の負担になってしまった。自分の存在が人のストレスになるのは申し訳なかった。それが意中の相手となれば耐え難いほどだ。

なるべく、他の人に話しかける体を取り、千幸もそこに巻き込む形を取った。
「新しく出来た店のランチ、結構美味しいみたいですよ」
「そっかあ。じゃあ、今度……皆で行ってみる?」
チラリと千幸を見たが、千幸は自分が皆に含まれているとは思ってはいないらしかった。
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