ちょうどいいので結婚します
 残された四人の間に冬の冷たい風が吹き抜け、静寂が訪れた。

 咲由美は、良一が功至を千幸の元婚約者だと説明した時、自分と良一の関係を誤解して功至がこの場に駆け付けたのではないかと良一に耳打ちした。そんなわけないと思ったが、咲由美はこうも言った。元婚約者のところに他の女を連れて駆け付けるのは、その女との関係が疚しくないからだと。

 ふうん、と唸る。酔っ払いでも女は時に鋭い。人は時に自分には無頓着だ。客観視すると自分と千幸もそう見えるのだろうか。誤解だと話せば『ああそうですか』と納得するものだと思っていたが、当人になればどうだろうか。数瞬で良一はそんな事を考え巡らせていた。功至の血相を変えて駆け付けたのは、なぜか。

 良一は、一つ試してみることにした。

「ちー、良かったな。お前が咲由美を羨ましがってたお迎えだぞ」
 千幸にそう言うと、千幸は青ざめ、功至は訝し気に眉を寄せた。

「違いました? ちーを迎えに来たのでは?」
「りょ、良ちゃん、お願いやめて」

 千幸は必死に良一の腕を掴んだ。

「確認をさせて下さい。さっきの女性はあなたの妹ですか?」
功至が良一に訊ねた。
「はい。三人で飲んでいて恋人が迎えに来ました。それが、羨ましかったんだよな、ちー? 」

 千幸は涙目でふるふると首を横に振った。

「破談になって落ち込んでたのを慰めてたんですけど? あなた方は何を?」
 良一は功至と多華子の顔を交互に確認した。
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