ちょうどいいので結婚します
 手近なカフェに入ると、功至は良一と、千幸は多華子と向かい合って座ることになった。

「自己紹介がまだでしたね」
 良一が切り出した。
「俺はちーの親友の兄で、進藤良一。妹が海外転勤になってから、職場が近いせいか、何かとちーに駆り出されてる。過去にも未来にもちーとどうこうは無い。以上」
「俺は、小宮山さんの……もう職場の上司でも無くなるんだけど、」功至は自虐的に言った。「何もかも『元』を付けなきゃならない関係です」
「私は小宮山さんと一柳くんと同じ会社で、彼とは同い年なこともあって、違うの本当に何もない。ただ、私にしかはけ口が無かった一柳くんが、あ、どうしよう、言い訳みたいに聞こえるよね。本当に何もないの」
 功至が吹き出して、なぜか良一も吹き出したので多華子は真っ赤になってしまった。

 ただ一人笑わなかった千幸は神妙な面持ちで膝の上に置いた固く握った両手がブルブルと震えていた。そして、自分の自己紹介の番だと思い切ったように口を開いた。

「あ、あの、私はっ、功至さんが、」

 功至と多華子が千幸に注目する中、良一は慌てた。さっき自分がしたアドバイスが裏目に出たのだと気がついて、
 
「ちー、ストップ!」
 千幸が今ここで言わんとすることを止めた。

「駄目だって、今じゃない。二人の時に言え。な? いいか。ああやっぱりこうなったら四人の意味がない。わかるよね、功至君。任せていいよね? 君、」良一は途中でドンドンと胸を叩くジェスチャーをし、功至に人差し指を向けて確認した。功至はふっと笑顔で頷いた。「もちろん」

 それを確認すると、良一は慌てて席を立った。多華子もそれに続いた。まだコーヒーも冷めていなかった。
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