ちょうどいいので結婚します
 店の外に出ると、良一はふっと顔を緩ませた。

「進藤さん」
 呼ばれて振り返ると、多華子がまだ温かいコーヒーカップを渡してきた。
「あ、ありがとう」
「ええ、まだ飲んでないのにもったいないでしょう」
「そうだね、じゃあ、これを飲む間だけ付き合って」

 良一と多華子は街路樹付近へ寄って立ち話をした。

「すみません、あまりよくわかってないんですけど、あれは上手くいく、という事ですか?」
「うん、そう。君も災難だったね」

 多華子は良一にその言い方に笑った。

「そっか、なんだ。小宮山さんも一柳くんの事好きなんだ」
「そ、もうねあれはファンって感じ。あ、一柳君も、でいいよね」
「いいえ」
 多華子はすぐに否定した。良一が、ん?と眉根を寄せる。

「あれは、盲目の信者です」

 良一と多華子の笑い声が響いた。

 コーヒーが飲み終わる頃
「さ、行こうか。付き合ってくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ。今日は気分がいいです」
「あーほんとそう。これからは彼に丸投げ出来るのかぁ」
 と良一は本音を漏らし、多華子も共感したのだった。お互いに、ホッとしたのか軽口も出てきた。

「時間があれば飲みに誘ったのに残念」
「へえ、意外」
「何が?」
「終電で帰すタイプには見えなかったので」 
 多華子はふふっと笑った。
「ひでえ、偏見」
 良一は抗議したが、その言い方に悪い気はしなかった。

「じゃあ、またお会いしたら食事でも行きましょ」
「だね。んー、君も意外。もっとガツガツ来そうなのに」
「偏見! あー……でも、そうかもしれないな」
「何が」
「イケメンで頭の良い人は《変わってる》から躊躇するんですよね」
 多華子は功至のいる方へ視線を向けてそう言った。

「美人もね」と言い返した良一に多華子も笑う。
「うまくいってるかな、あの二人」
「さぁ」

 もう一度二人を思い、顔を見合わせて笑いあった。

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