ちょうどいいので結婚します
「今から言うことであなたを傷つけるかもしれない。だけど、言わずにはいられない。もし、これであなたに幻滅されても、これきり最後になっても、足掻かせて下さい」
 功至は息をすっと息を吸って、千幸の目を見据えた。

「俺は、あなたが好きです」

 千幸は、破談になったこと、こうなるまで言い出せなかったことを謝罪されるのだと唇を噛み、泣かずに受け入れる覚悟をしていた。なのに予想と異なる言葉が功至から出て理解が追いつかなかった。そして、思い至った。

「人として、ですよね。だから、結婚を受け入れた。それと、私……私が先にあなたと結婚したいと言ったから、断れなかった。ごめんなさい。あなたの優しさにつけこみました」
「駄目。最後まで聞いて。ちゃんと伝わるまで言うから」

 功至の手に力が入った。千幸は自分勝手に考えるのをやめ、功至の言葉だけを聞こうと頷く。

「思い返せば、二年前」
「え、二年前?」
 急に話が飛躍した気がして、千幸は口を挟んでしまったが、「そう」と笑顔で頷く功至に口を噤んだ。

「出会ってすぐにはもう好きだった」

 千幸は驚き過ぎて声も出せなくなっていた。同情でこう言ってくれたのではと疑う方が容易いほど信じられなかった。二年前の記憶を辿る。千幸の瞳が揺れる。

「本当だ。疑わないで」

 千幸の心情を見透かしたのか、功至はそう言った。

「あなたの視界に入りたくて、必要以上に話しかけ、怖い思いをさせてごめんなさい。それで、ずっと、ずーっと今日まで好きで、今も。結婚話が出た時は本当に嬉しかった」

 功至はにこりと笑った。
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