ちょうどいいので結婚します
「あなたにとって、俺がちょうどよかっただけだとしても、少しはこの結婚を楽しみにしていてくれたのだと、さっき知って。ごめん、進藤さんとのことを誤解してたものだから。同等の気持ちがなくてもいい。俺がここから努力する。信じてほしい」

 功至は千幸の瞳の奥を覗くように見つめた。ぽろり、千幸の大きな瞳でも湛えきれなくなった涙が頬を伝った。

「え、わっ! ハンカチ! 持ってねぇわ。紙ナプキンで……あ、固いな。目に傷がついたら大変だ」
 
 功至が紙ナプキンを柔らかくしようと揉み始めたので、千幸は泣いていたのにふるふると笑ってしまった。

「持ってる。ハンカチ、持ってるから」
「あ、そうか。千幸(ちゅき)ちゃんはそうだよな」
「ごめんなさい、泣いたりして」
「ああ、いいよ。全然。人の目なんかは気にしなくて。俺はねぇ、笑った顔の方が好きだけど、泣いててもずっと見てられるし」

 千幸は過去を思い出していた。確かに功至は入社した頃よく話しかけてくれた気がする。ただ、気を使ってくれていたのだと思っていた。千幸は当時からどう返していいか戸惑っていた。それを功至は怖がらせたと勘違いしていたのだ。

 そして、功至の今の言動。この人は、ずっと優しかった。自分本位であることもなく、千幸を理解しようとしてくれていた。

 あと、時々《《ちょっと変》》だ。

 千幸はそれがなぜか気が付くと、ハンカチで目を押さえ俯いていた顔を上げた。すぐ目の前に、急かさずに待ってくれている功至の顔があった。
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