ちょうどいいので結婚します
「私も、さっき言おうとしたの聞いてもらってもいい?」
「いいよ。大丈夫、何でも受け入れるから」

「思い返せば、二年前」
「え?」
「ふふふ、同じ時期を思い出して」
「はは、うん」
 功至は言われた通り過去を思う出すように視線を(くう)にぐるりと回した。
「あなたが、話しかけてくれるのが、嬉しくて、でも、恥ずかしくて、どう返していいか分からなかった」
「ああ、そっか。千幸(ちゅき)ちゃんはそっか。そうだったのか」
「うん、うふふ。だって……」
「んー? だって?」
「あなたがあまりに素敵だから」

 功至の目が見開かれ、僅かに赤面した。

「何だよ、俺は、あまりにも可愛いから話しかけてたのに」
 とそっぽを向いてしまった。

「私、結婚はする気がなくて、公認会計の資格を取りたかったから。でもあなたとの結婚話が出たら何も考えられなくなって直ぐに頷いてしまってた。あなたへの気持ちは憧れだと思ってた。あなたは私が目指すルートを辿ってすでにそこに到達している人だったから。でも、憧れではなく好きって気が付いて。なんで好きになったのか考えたの。公認会計士さんで、こんな私にも話しかけてくれて優しいでしょ? だからだって思った。だけどそれなら同じく公認会計士の福留さんは? そんな気持ちになれなかった。いつも気にかけてくれる良ちゃんにもそんな気持ちになれない」

 千幸はそこで功至に「ね、こっちを向いて」と催促した。功至は照れくさそうに千幸に向き直ると、愛おしそうに見つめてくれた。

「私も、ずっとあなたが好き。あなただから結婚したかったの。あ、あなたと結婚できないなら、結婚し、したくないの」

 功至はまた泣き出した千幸を引き寄せると、自分の胸に千幸を引き寄せた。
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