ちょうどいいので結婚します
「寝てない。笑ってたの。何? 今度はそう呼ぶことにしたの?」
「うん。あの人がそう呼ぶの可愛い呼び方だなって思っていて。でも、俺だけの呼び方もしたいから千幸(ちゅき)ちゃんとも呼ぶ」
「うん。これからは好きに呼んで」

 千幸はまだ笑っていた。
 
「ん。で、何で笑ってんの?」
「あなたが、あまりにも愛おしくて」

 千幸は、功至の顔を包むと自分から唇を重ねた。功至は驚いたようだったが、すぐに応えた。

「だめだめ千幸(ちゅき)ちゃん。手も唇もすごい冷えてる。先に温まっておいで」 

 名残惜しそうにしながらも功至は千幸を風呂へと押し出した。

 風呂には、ちゃんと真新しいクレンジングが用意されていた。きっと、最初に家に来た後にでも買っておいてくれたのだろう。
 千幸は湯舟の中で顔を緩ませた。それと、功至と自然に話せている自分に驚いた。自分の気持ちを相手に受け入れて貰えるのはなんと幸せなことだろうか。功至は思ったよりずっと、愛おしい人だった。

 ずっと格好いいと思っていたけど、可愛いとも思う。私と同じで、私にどう接していいか分からなかったのね。改まって付き合って下さいと言われた時、不器用な人だと思った。そして、誠実で純粋な人だともっと好きになった。どうしよう、私……。

 リビングから、功至の機嫌のいい鼻歌が微かに聞こえた。とんでもない感情が胸に溢れた。
「はあ、可愛い。もう、好きすぎる」

 早く出たい気持ちと、功至の鼻歌をもっと聞いておきたい気持ちで悩むことになった。
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