ちょうどいいので結婚します
 功至は、何となく甘い空気に、そろそろベッドに誘うかと思っていた。そのまま寝てしまってもきっと可愛い寝顔に満足するだろうと、下心にもそう言い聞かせながら、自分に身を寄せる千幸から少し距離とった。

 が、反対の力が働き、千幸の方へのめってしまった。
「うわ、ごめん大丈夫?」
 ごめんも何も千幸が引っ張ったのだ。

「もう少しこのままでいたらだめ?」
 
 千幸は功至の胸に顔を埋めたまま言った。すぐそこのベッドまで移動するだけなのに、ひと時も離れたくないという気持ちは功至も同じで

「いいよ」 
 と、千幸を抱く腕に力を込めた。

「功至さんの匂い、好きなの」
「え、匂いかいでんの、これ」

 胸のあたりで千幸の呼気を感じた。思っていた感情でここにいるわけではなさそうで、いや広義の意味では同じか。とにかく功至は不可解な行動の千幸に寄り添う時間となった。可愛いからいいか、と思うことにした。

 ただ、非常に変な気分にはなる。このまま寝かせられそうにはない、状態になりそうだった。時計と千幸のつむじとを何度も往復させ、まだかまだかと千幸が(嗅ぐのに)満足するのを待った。

千幸(ちゅき)ちゃん、そろそろ……」

 千幸に声を掛けると、とろんとした目で、寝そうになっていた。

「大変だ」

 功至は千幸を抱えてベッドへと運んだ。千幸は微かに目を開けたが、そのまますぅっと眠ってしまった。
「まぁね、こんなことだろうと思った。今日、すっごい頑張っていっぱい喋ってくれたもんね。お休み、千幸(ちゅき)ちゃん」

 功至は千幸の長いまつ毛にそっと口づけた。そして、「お前は我慢しろ」と、誰にか話しかけて、自分も布団の中へと入った。
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