ちょうどいいので結婚します
 ――功至の出勤最終日。

 朝礼が設けられ、功至は一言挨拶をした。それから、
「最後に、皆さんに報告があります」
 そう言って、千幸に視線を走らせた。
「彼女、小宮山千幸さんと来年結婚します。それで……」

 そこからは、色んな人の声で功至の言葉がかき消されてしまい、功至が囲まれているのを千幸は肩を揺らして遠巻きに見ていた。

 千幸は、人と話すのが苦手だ。仕事後の送別会で報告しても良かったのだが、功至は自分がいなくなった後、千幸が質問攻めにあうことを避けたかった。
「大丈夫。私も、頑張るから」千幸はそう言ったが自分が引き受けようと思ったのだ。思ったより、ひどい質問攻めにあったが、千幸と目を合わせて微笑みあう姿を見せると、やがて静かになった。

「私たちにくらい教えてくれたって……」と近い人たちには言われたが、「びっくりさせたかったんだ」と乗り切った。

 結局、送別会の時には千幸もあれこれ質問されることになったが、功至が
「俺がずっと片思いしてたの」と押し切ったおかげで皆は大してつっこむことなく、冷やかすにとどめ祝福してくれた。

「小宮山さんも話しやすくなったもんね。一柳さんの《《せい》》だったんだ」
「それは、そうです」
 千幸は正直に頷いた。すっと視線をずらすと、功至がみんなと話している千幸をほほえましく見ていて、千幸はさらに顔を赤らめ、また冷やかされることになった。
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