ちょうどいいので結婚します
 年末、まずは、千幸の両親の元へと挨拶に行った。その和やかさに乗じて、功至は婚前旅行の許可を得ようと切り出した。実際はもう予約しているので行きますという事後報告である。しかも、もうししゃもの旬は終わり、ただの北海道旅行になりそうだった。

「来月、千幸さんと旅行へ行こうと思っているのですが……」

 愛一郎の顔が強張った。まずい、と功至は思った。それを察した千幸が援護射撃をした。

「私、本物のししゃもが食べてみたくて、功至さんに連れてって欲しいってお願いしたの。早くしないとししゃもの季節が終わっちゃう!(もう終わってるかもしれないけど)」
「ししゃも?」
「ししゃも」

 千幸がこくんと頷く。功至は、ししゃもにそんな力があるのかと疑問に思い、目を泳がせていた。

「ししゃもが好きなのか、千幸」
「うん。大人になってからハマッて。お土産買ってくるね」
「それなら別にわざわざ北海道まで行かなくても、取り寄せたらいいじゃないか」

 功至は、ごもっとも。と頷きかけてしまって、顔を上げた。いや、旅行だ。俺たちの目的は旅行。
「……取り寄せ。なぜ今まで気づかなかったのかしら」
「いや、あのねえ、千幸ちゃ……」
 功至は口を挟もうとしたが、愛一郎が早かった。にっこりと
「そうだ。お前たちが行かなくてもいい。ししゃもを呼べ。ししゃもに来てもらう形を取ろう!」
 と、嬉々として言った。変なことになったと思ったが助け舟が出た。
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