ちょうどいいので結婚します
会員制のスパ、ドライサウナの温度計は80度をまわっていた。中年期を過ぎた男性二人向き合って陽気に話していた。

「いやあ。勇ちゃん!」
「やったな、愛ちゃん」

 二人の表情は初めてここで顔を合わせた時とは雲泥の差だった。

「《《あの》》千幸が嬉しそうに毎日笑っているよ」
「《《あの》》功至のあんな緩んだ顔、親でもは初めて見る」

「うまくいくと思っていた」
「ううん、疑わなかった」

 千幸()を気にいらない男性などいるわけはないのだから。
 功至(息子)を気に入らない女性などいるわけもないのだから。

 そう思ったのは口に出さずにいた。

「しかし、良縁というのはこんな近くにあるもんなんだな」
「そうだなぁ。なるべくしてこうなったみたいじゃないか」
「ここまで《《何の問題もなく》》とんとん拍子だったもんな」
「そうだ。驚くほど《《順調》》。長年悩んだのが馬鹿みたいだ。ははは」
「はははは」

「今頃二人は北海道だろうか」
「着いたころか。全く、親の気も知らず、楽しんでいるんだろう」
 勇太郎はやれやれといった調子で額の汗を握った。

「はは、若いうちはわからんもんだ。あの子たちも親なって初めてわかるだろう。我々もあのくらいの時は好き勝手しとった」
「そうだな。今日にでも子供をつくって帰ってくるかもしれんぞ。ははは」

 愛一郎の顔が強張ったので、ウホンと勇太郎は咳払いし
「いや、婚約しているのだから」と、諭すように言った。
「む、そうだな。きっと孫もすぐだろうな」
 愛一郎は今の千幸の年では、妻はもう子を産んでいたことを重ね、何とか受け入れた。
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