ちょうどいいので結婚します
──企画営業部の石川多華子とは、同い年なこともあって早々に打ち解けた。

「小宮山さんって、あの社長の娘だよね。すごい綺麗な人だけど、全然喋べんないし、何考えてるかわからないって経理部の子が言ってたわ」
「いや、何考えてるか、すっごいわかるよ。千幸ちゃんは」
「へえ……千幸(ちゆき)って言うんだ。下の名前。可愛い名前だね。早口で言うと“ちゅき”になるね。舌足らずな子供が言う“好き”みたい」
「本当だ。“ちゅき”って感じだ……」

ぼーっとしながら、功至はそう言った。
「ねえ、小宮山さんって私たちより年上でしょ? なのに一柳くん、『千幸ちゃん』って呼んでるの?」
「本人の前では呼んでない」
「いやさ、今日ここへ来てから、ずーっと小宮山さんの話ばっかりしてるけど、好きなの?」
「そう、好き」

功至はあっさり言ってしまって、自分でも驚いた。からかうつもりだった多華子も何も言えなくなってしまった様だった。

 そこから功至は、多華子にひたすら千幸について語る時間を設けることになってしまったのだ。

「小宮山さんってさ、あんなに綺麗なわけだし、憧れてる人多いんだけど、社長の娘だけにみんな手を出せないのよね。小宮山さん自身も口説かれても男性は自分が社長の娘だから近寄って来たんじゃないかって疑心暗鬼になりそうよね」
「そんなわけないだろう、あんなに可愛いのに」
「まあね、一柳くんは会社経営には関係ないもんね」

──功至の片思いは二年近くになっていて、功至にとって多華子は唯一胸の内を話せる友人だった。

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