ちょうどいいので結婚します
「ちょ、だからー、まーた千幸はぁ! 」
 功至が慌てて千幸に駆け寄った。功至の千幸への呼び名はころころ変わる。

「だって、私、何もかも功至さんにしてもらって、何もお返しができてないの。このくらいは!」
 千幸は、ついに両手の荷物だけじゃ足りず、ウーバーイーツ並みのリュックをしょって来た。

「あのねぇ、千幸(ちゅき)ちゃん。何の食材持ってきたの? 」
 功至は千幸の両手、両肩から荷物を受け取ると、車を買おうかと本気で思った。

「あ、えっとね」
「あのね、俺は、ちーと一緒にスーパーへ行くという《《イベント》》もすっごい楽しみにしてるんだから、その楽しみ奪わないで」
「そっか。ああ、そっか。持ってこなくてもここから買い物に行けば……! 私っっ! 何で気が付かなかったの? ああもう、恥ずかしい」
 憔悴する千幸に功至はすでに寄り添うスタンバイをしていた。
「いや、これはね、持って来てくれて嬉しい。ししゃも? ししゃもかな? ちゅきちゃんがその細腕で持って来てくれたなら、ちゅきちゃんも含めだっっっっい好きだし、いい火加減で焼くの楽しみ!! なんだけどね? 次は一緒に買い物に行こうね?」
「ごめんね、功至さん」
「や、もう何でもいいや、俺。幸せだし」

 功至がそう言うと、涙目だった千幸も顔を綻ばせた。荷物を冷蔵庫にしまうのも待てず、しゃがんだ姿勢のまま功至は千幸にキスを……落とす。千幸はすでに目を閉じて待っていた。




――――end


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