ちょうどいいので結婚します

　功至が千幸の胸に顔を埋めると、千幸は功至の髪を愛おしそうに混ぜた。
「千幸(ちゅき)ちゃん。心臓動いてる。可愛い」
「功至さん、生きてるんだから当たり前でしょ」
　千幸がふふと笑う振動が功至に伝わる。

「じゃあ、生きてるだけで可愛いってことだねぇ？」
　この調子の功至に千幸もなれつつあったが、それでも心臓が早鐘を打ち始め、その音を聞かれる羞恥から功至を押し返した。
「もう！　そんな事ばっかり言って！」
　
　功至は、きょとんとした顔で首を傾げた。
「え、何で？　本当の事だし」
「……。功至さん、本当に変わった。違う人みたい」
　千幸はむくれて言ったが、功至は全く怯むことなく、千幸に顔を近づけた。
「変わってない変わってない。出しただけ」
　そう言って、千幸に軽くキスをすると今度は千幸の顔を功至の胸に埋めた。

　千幸の耳に功至の鼓動が伝わる。千幸と同じ、早い鼓動だった。
「ちーより、俺の方が緊張してるから大丈夫」
「ほんとだ」
　千幸も功至の背中に腕を回し、もっと鼓動が聞こえるように抱きついた。

「あ、千幸(ちゅき)ちゃん寝たらダメだからね」

　功至は、初めて千幸が泊まった日の事を未だにからかう。怒っているのではない、単に千幸の恥ずかしそうな顔が見たいのだ。

「もう！　それ一生言うの？」
「……一生。俺、長生きする」
「え、あぁ、はい」
「だから、あんまりドキドキさせないで」

　結局、千幸はよくわからなくて首を傾げたがその仕草さえ、功至をドキドキさせてしまったようだった。