ちょうどいいので結婚します
功至はこの日も音がしないようにフロアモップで掃除をしていた。
時々、この家にいるのは千幸に焦がれすぎた自分が作り出したCGなのでは?と思うことがある。
「俺の奥さんが千幸ちゃんだと? 」
そんな幸せなことがあるだろうか。信じられない気持ちでいた。本当に現実なのだろうか。妄想では?
ガタンと音がして、千幸が部屋から出てきた。
「生身! マジかよ」
「ん? 功至さん、何て?」
「や、お疲れ様。一息つく?」
「うん。お茶いれるね」
「あぁ、俺がいれるよ」
「いいの。少しは動かないと。功至さん座ってて」
功至は(自分のために)お茶を入れる千幸をガン見していた。
「本物だ」
「功至さん、何か言った?」
「言ってない。可愛い」
向こうで千幸が吹き出すのが聞こえた。
「それ、何回言うの? 」
「100回」
真顔で言う功至に、コーヒーを運んできた千幸が訝し気な顔を向けた。
「そんな、無理して言おうとしなくても」
「いや、無理でもしないとその倍は言ってしまうだろ? 100回までって決めてセーブしてる」
「セーブ? 」
「そう。100回以降は心の中で言うことにしてる。相当無理してるけど大丈夫。心配しないで千幸ちゃん」
千幸の顔はまだしかめられたままだったが、みるみる赤くなった。
「なな何を言ってるのよ」
「はは、コーヒーありがとう。いただくね」
くっそかわいい千幸の照れ顔を見ながら、千幸の入れてくれたコーヒーを飲む。なんと幸せな日だろうか。『可愛い』と口に出さなかったのはさっきで100回目に到達してしまったからだ。100は少なすぎたな。そんな事を思いながら、コーヒーをすすった。