ちょうどいいので結婚します
────なぜ、こんな近くに素晴らしい相手がいることに長く気がつかなかったのだろうか。
翌日、愛一郎は千幸が帰ってしまわないうちに社長室へと呼び出した。
結婚の話から入れば嫌な顔をされるのはわかっていた。愛一郎はまるで報告させるようにここ最近の仕事の様子などを尋ねた。
「一柳さんがご指導下さいますので」
功至の名前が出て、しめたと思った。
「そうか。一柳くんの仕事ぶりはよく聞いているが、人格はどうかな。人の上に立つ人間として」
「ええ、とても細やかなところまでよく見て下さっています。それだけでなく、いつも差し入れなど、部の雰囲気を和らげる気配りまでして下さって、本当は私がそう出来たらいいのですが」
千幸の表情が少し曇った。やはり自分の娘だということで、周りとはうまくやれないのかと可哀想に思った。
「いや、そもそも経理部というのはそう口数の多い人間が集まる場所ではないからな。その点、一柳君はそういう気配りも得意とするだろう。はは、明るい家で育ったんのだろうか。彼みたいな人が家にいたら楽しいだろうな」
少々、不自然であったか、千幸は不審な顔をしたが
「そうですね」
と、頷いた。
「そうだろう。千幸も結婚するなら、彼みたいな人がいいな」
冗談混じりで言ってみたが、なんと千幸は、こくんと頷いたのだ。
「千幸、実はお前にぴったりの相手が……」
「社長、心配は有難いですが、何度も申し上げました通り、私には目標がございますのでそれを達成するまで結婚は考えておりません」
娘のピリリとした表情、こっちは『千幸』と呼んでいるのに『社長』と返される。取り付くしまのない様子にやはり駄目かと勇太郎のがっかりした顔が浮かんだ。
翌日、愛一郎は千幸が帰ってしまわないうちに社長室へと呼び出した。
結婚の話から入れば嫌な顔をされるのはわかっていた。愛一郎はまるで報告させるようにここ最近の仕事の様子などを尋ねた。
「一柳さんがご指導下さいますので」
功至の名前が出て、しめたと思った。
「そうか。一柳くんの仕事ぶりはよく聞いているが、人格はどうかな。人の上に立つ人間として」
「ええ、とても細やかなところまでよく見て下さっています。それだけでなく、いつも差し入れなど、部の雰囲気を和らげる気配りまでして下さって、本当は私がそう出来たらいいのですが」
千幸の表情が少し曇った。やはり自分の娘だということで、周りとはうまくやれないのかと可哀想に思った。
「いや、そもそも経理部というのはそう口数の多い人間が集まる場所ではないからな。その点、一柳君はそういう気配りも得意とするだろう。はは、明るい家で育ったんのだろうか。彼みたいな人が家にいたら楽しいだろうな」
少々、不自然であったか、千幸は不審な顔をしたが
「そうですね」
と、頷いた。
「そうだろう。千幸も結婚するなら、彼みたいな人がいいな」
冗談混じりで言ってみたが、なんと千幸は、こくんと頷いたのだ。
「千幸、実はお前にぴったりの相手が……」
「社長、心配は有難いですが、何度も申し上げました通り、私には目標がございますのでそれを達成するまで結婚は考えておりません」
娘のピリリとした表情、こっちは『千幸』と呼んでいるのに『社長』と返される。取り付くしまのない様子にやはり駄目かと勇太郎のがっかりした顔が浮かんだ。