ちょうどいいので結婚します
「……そうか。残念だな。向こうは乗り気なんだが」
「会ったこともない相手に乗り気だなんて……」
千幸が顔をしかめた。
「いや、毎日会ってる相手だ」
「……毎日?」
「その、一柳君だ」
そう言うと、千幸の目が大きく見開かれ、唇が僅かに動いた。
「お受けします」
「そうか。やはり駄目か。しかしな、千幸……ええ!? 何と言ったか?」
「一柳さんが、そうおっしゃるのでしたら。では、私はこれで。急ぐので」
と、本当に急いでいるらしく、部屋から走って出ていった。愛一郎はしばらく信じられない気持ちでそこに佇んでいた。いざ、娘が頷くと、寂しいような気持ちまで湧いてきて、ぶんぶんと首を振った。
『お受けします』
確かに娘はそう言った。不器用な娘だが、自慢の娘だ。その娘がこんな即答するくらいの良縁が間近にあったとは……。
良い年をして飛び上がりたいほどの出来事だった。それからすぐに帰宅し、妻に報告すると、妻などは泣き出す勢いであった。
「まてまて、まだ相手側に伝えていない」
そう宥めたが、自身も目頭が熱くなるのを感じた。
その気持ちが冷めやらぬまま、愛一郎は勇太郎に一報を入れた。勇太郎の声も弾んでいた。
相手に伝えただけで、断られるという発想のない夫婦はワインセラーから二番目に良いボトルを取り出した。
千幸が無事に結婚したら一番良いものを開けるつもりだ。
「会ったこともない相手に乗り気だなんて……」
千幸が顔をしかめた。
「いや、毎日会ってる相手だ」
「……毎日?」
「その、一柳君だ」
そう言うと、千幸の目が大きく見開かれ、唇が僅かに動いた。
「お受けします」
「そうか。やはり駄目か。しかしな、千幸……ええ!? 何と言ったか?」
「一柳さんが、そうおっしゃるのでしたら。では、私はこれで。急ぐので」
と、本当に急いでいるらしく、部屋から走って出ていった。愛一郎はしばらく信じられない気持ちでそこに佇んでいた。いざ、娘が頷くと、寂しいような気持ちまで湧いてきて、ぶんぶんと首を振った。
『お受けします』
確かに娘はそう言った。不器用な娘だが、自慢の娘だ。その娘がこんな即答するくらいの良縁が間近にあったとは……。
良い年をして飛び上がりたいほどの出来事だった。それからすぐに帰宅し、妻に報告すると、妻などは泣き出す勢いであった。
「まてまて、まだ相手側に伝えていない」
そう宥めたが、自身も目頭が熱くなるのを感じた。
その気持ちが冷めやらぬまま、愛一郎は勇太郎に一報を入れた。勇太郎の声も弾んでいた。
相手に伝えただけで、断られるという発想のない夫婦はワインセラーから二番目に良いボトルを取り出した。
千幸が無事に結婚したら一番良いものを開けるつもりだ。