ちょうどいいので結婚します
 ──出勤時間

 功至は早く来すぎた事に暇を持て余していた。千幸がいつも誰より早く出勤しているのを知っていたからだ。ほんの少しの時間でも二人になれたら昼食を誘う予定だった。

 ところが、この日に限って、千幸が出勤してくるのは遅かった。功至の珍しい行動に同じ部署の妹尾が声をかけてきた。

「あれ、一柳さん今日早いですね、何かトラブルですか?」
「いや、早く来すぎただけ」
「へえ。珍しい。あれ、小宮山さんがまだですか? それも珍しい」

 次々に出勤前してきて、結局千幸は最後だった。
「小宮山さん、おはよう」
 功至は挨拶をしたが、それも他の人たちが挨拶する声に消されてしまった。そして、誰かしら前を通るのに遮られ、千幸の顔を確認することも出来なかった。

 功至の席は少し離れていて、前は通路になっていた。朝は特に人がよく通る。千幸の横顔は見えるが、顔にかかった髪が表情を隠していた。

 デスクワークで俯く事が多い。サラリとした綺麗な髪は千幸の肩にかかり、肩からもハラハラト落ちていた。……長い髪は耳にかけたらどうかな? 功至は頭の中でそう念じたが、叶わなず、千幸は反対側の髪をしきりに耳にかけていた。

 いつも通りだった。功至が思っていたように何かしらのアクション、例えば、少し自分に微笑んでくれるとか、そんなこともなくいつも通りの千幸だった。いつもならそれでいいのだが、この日はいつも通りでは気持ちが収まらなかった。

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