ちょうどいいので結婚します
────遡ること、数ヶ月。二人は偶然出会った。

場所は会員制のスパのサウナだった。勇太郎は浮かない顔でサウナ内へ入った。先客がいるのも気づかないくらい考え事をしていた。

先客である愛一郎も誰かが入って来たのも気づかないほど考え事をしていた。

考えても仕方がない。そう思い、顔を上げたのは二人同時だった。バチッと目があった同世代の二人はようやくお互いを認識すると
「どうも」
と、感じよく会釈を交わした。

「や、あなた顔色がよく無いですな。無理をなさらない方が」
「なあに、体調は元気ですよ。ちょっと息子のことで頭が痛くて考え事をしておったのです」
「それは奇遇ですね。実は私も娘のことで頭を悩ましておりまして。お互い気苦労が絶えませんな」

こんな所で会ったのだ。お互い裸の付き合いということで少しづつ身の上話をするようになった。すると、二人は縁があることがわかったのだ。

「いやあ、世間は狭いですな」
「全く。まさか一柳君の父上とは」
「いやいや、こちらも息子がお世話になってる会社の社長さんだとは」
「お互いに経営者だという共通点もありますしなあ」

二人は意気投合した。元よりかなり気が合った。年は重ねて、腹は年相応のゆるいカーブを描いていたが、恰幅の良い見た目に滲み出る育ちの良さ。経営者といえど物腰の柔らかな二人であった。

昔はよくモテただろう。お互いにそう思っていた。愛一郎は勇太郎の子息、功至のことを見知っている。あの息子の人柄からも善き父親であるだろうと印象も良かった。
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