ちょうどいいので結婚します
 功至は、んんっと勿体ぶったような咳払いをした。
「仕事の、独立しようと思っているという話は聞いてらっしゃいますか?」
「え、ええ。聞きました。私も一緒にと」
「そうです。新たにオフィスも構えますし、先に籍を入れた方が何かとスムーズで」
「ええ、わかります」
「一緒にいる方が、相談もしやすいですし」
「ええ、わかります」
「挙式のことなど同時進行で申し訳ないのですが、先ず早々に拠点を僕の家もしくは新居に移していただきたい」
「ええ、そうですね」

 功至は自分で言っておいて、千幸を騙しているような気持ちになってきた。性急すぎないか。

 千幸は感心するように息を吐くと
「やっぱり流石ですね、一柳さん。私なんて何をしていいかもわからないのに、こうやって順序立てて考えて下さって」

 千幸は益々惚れ直しているところだったが、功至の胸は罪悪感で痛んだ。

「あの、小宮山さん。職場では他の人の目があるので思うように話せませんが、僕があなたと同じ気持ちでいるということは覚えていてください」

 功至は、明日以降も職場で今日のように話せなかったらと、どうしても言っておかねばと思った。

 千幸は功至が自分と同じ気持ちでいることに驚き、胸が熱くなった。

「はい。考えて下さってありがとうございます」

 功至は千幸がそう言って笑ったことで思い出した。そうだ、ずっとこのたまに笑うのが堪らないと思っていた。これからはこんな近くで見られるのだ。

 千幸もまた自分を見つめて微笑む功至に胸が痛いくらいに幸せだった。

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