ちょうどいいので結婚します
 功至は一人暮らしの部屋、玄関で電気も点けずに頭を抱えていた。

 千幸と二人で話せて浮かれて帰って来たが、ふと我に返り、自分の不甲斐なさに一人反省会を開催していた。

 千幸の顔を見た瞬間、酔いは冷めたから変な事は口走ってないはずだ。多少はあるが、あれは千幸を目の前にした功至の通常運転であり話した事に後悔はなかった。一日でも早く一緒に住みたいのは事実なのだから。

 大事なことは二つ。

 一つは、ずっと好きだったと伝えなかったこと。『同じ気持ち』では今の感情ならば千幸と差異が有りすぎる。あくまで千幸は自分を悪く思ってはいない程度であり、自分はもう愛しているのだから。

「あれじゃあ、まるで、契約結婚みたいじゃないか」

 もう少し打ち解けたら、自然に気持ちを打ち明けようと誓った。

 二つ目。
「誰だよ、あの男。いや、マジで」
 あの場で“今の方は?”と聞けばそれで済んだことなのに。今になって誰ですか?何て日に日に聞きにくくなるではないか。

 それに、冷静に考えれば、自分も多華子と二人でいたのだ。女性と二人でいたことに何も言われなかった。言えなかったのかもしれない。念のため、説明し、その流れから、千幸が一緒にいた男のことも聞いたらいいではないか。

 功至はすっくと立ち上がり、ようやく電気を点けた。

 初っぱなにため口で話してしまって以来、職場では上司という立場もありそのままにしていたが、それが千幸を怖がらせたことを後悔していた。せめて、二人の時は安心してくれたらいいのだが、逆によそよそしくなってしまった。

 どうしたものか。

 迷走の極致であることに気がついていなかった。
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