ちょうどいいので結婚します
『今日は話せて良かった』

 そうか、メッセージでも送ればいいのか。功至は思い立ち、スマートフォンを掴むと、もう一度しゃがみ込んだ。

「いや、連絡先ってばよ。どうかしてる」

 何と、大事なこと三つ目も出来ていなかったことが判明した。ポンッとスマホをソファに投げた。連絡先を聞かずに別れたのだ。心底自分を嫌いになりそうだった。……落ち着こう。

「そうだ、二年近くも我慢出来たんだ。手に入ったと思ったら、こんなに我慢出来なくなるなんて。大丈夫だ、焦らなくても。これからずっと、一生一緒にいるのだから」

 功至は自分に言い聞かせるように独り言を言い続けた。ただ、連絡先は早急に聞かなければならない。

 明日、朝一番。聞く。呪文のように呟いた。

 今日の千幸の自分に対しての態度を思い出していた。まだまだ堅苦しい態度で、あの男の方が恋人らしかった。自分は婚約者なったのだが、先ずは恋人のように心を許してもらわなければ……。

 ふと、ネオンを瞳に映して、『お供します』と言った千幸が思い出された。

「何だったんだ、あれ」
 功至は立ったり座ったりしながら熱を逃した。

 そうだ、親睦を深めるのに、旅行にでも誘ったらどうだろう。
『あの、お気持ちは嬉しいですが、最初はやっぱりせめてシティホテルとか、旅行先とか……』と、口走ったことを思い出し、駄目だ、下心丸出し過ぎる。俺は千幸(ちゅき)ちゃんに何を言ってしまったのだろうか。さらに、新婚旅行まで待てないと、言ってしまった。

 結局、功至は立ったり座ったりという無意味な行動を何度も繰り返すことになった。
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