ちょうどいいので結婚します
 千幸はとっくに風呂を済ませていた。ベッドの上に寝転んではいるがまだ寝るつもりはない。正確に眠れないのだ。

 自分はただ舞い上がっていただけなのに功至はその間、具体的に考えてくれていた。

「さすがだなあ、一柳さん」

 それに、功至は『同じ気持ち』だと言った。父も言っていた。『向こうも乗り気』だと。

「本当だったんだ。本当に、一柳さんも私を望んでくれているってこと、だよね?」

 そう思うと幸せで千幸は一人きゃあきゃあはしゃいだ。が、ピタリと動きを止めた。功至が多華子といたのを思い出したからだった。

 自分は邪魔をしてしまったのではないか。自分に対しての功至の態度は、多華子に対するそれはとは随分違っていていて、多華子には親密さが溢れていた。

「……あれ?」
 功至は仕事中、千幸に敬語で話してはいなかった。それなのに二人プライベートで会うといつもより距離のある話し方だったように思う。まるで、二人でいる時の方が仕事のような、雰囲気だった。

 何か変だと思った。だけど何がどう変なのかその違和感を突き止めることが出来なかった。

 千幸は気持ちが上がったり下がったりを繰り返しながら、そのうち眠りについてしまった。

 ──翌朝
 メッセージが届いていた。良一からだった。

『昨日は大丈夫だったか? 誤解されてなかったか?』

 誤解?何をだろうか。

『誤解って何?』
 千幸がそう返信すると、メッセージからため息が聞こえて来そうな文言が次々と送られて来たのだった。

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