ちょうどいいので結婚します
 功至が千幸の顔を覆っていた手を避けると、千幸は真っ赤になって涙ぐんでいた。
「ど、どうしましたか? 何かトラブルでも」
「すみません。昼休み、私変でしたよね。皆さんにも変だと思われたんじゃないかって後悔が襲ってきて……」
「ああ」

 功至は今までの千幸を思い出し、千幸の心情を理解した。つい、顔が緩んでしまう。愛おしいな、この人は。

「いいえ、楽しく会話出来てましたよ。小宮山さんから声を掛けられてみんな嬉しかったと思います。だからあんな良い意味で不躾な質問も出てきたのだと思います。興味がなかったら質問も出ませんからね。花マルです」
 功至の子供に言い聞かすような物言いに千幸もふっと顔を緩ませた。

「でも、一柳さんのこともあんな風に言ってしまって……」
「いいえ、後々小宮山さんが言った『婚約者』が俺だってわかったら冷やかされるくらいでしょう。問題ないです」
「本当ですか?」
「本当です」
 功至はしっかりと千幸の目を見て安心させるように深く頷いた。功至は社内に千幸を狙っている男がいるという情報を聞いたと同時に『婚約者』というワードで蹴散らせたことには一先ず満足していた。

 ただ、他の男でも結婚を受けたのかだとか、自分はあくまで婚約者で恋人ではないとか違う不満は抱えていたが、同僚と休憩中に会話を交わしたくらいで涙ぐむ千幸にその不満をぶつけるのは今ではないと思っていた。
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