ちょうどいいので結婚します
「さて、ではさっさと終わらせて食事にでも行きましょうか」

 功至がそう言うと赤かった千幸の顔がサッと青ざめた。千幸はホッとしたのもつかの間、もう一度緊張することになると構えた。だけど、自分は功至と結婚するのだ。慣れないといけない、変わりたいと強く思った。

 ん?と首を傾げて千幸の返事を待つ功至に、まだ一緒にいたいと思う気持ちが溢れる。

「はい。あの、では残りのお仕事、手伝っていただけますか?」
「ふっ、もちろんそのつもりです」

 功至はおかしそうに肩を揺らし、千幸はまた頬を赤らめた。

 焦らずに、ゆっくり、功至は慎重に大切に事を進めたかった。出会ってすぐの頃のように怖がらせることがないように。ただ、目下さっさと会社から出て二人っきりになりたかったので仕事の手だけは早く早くと急いだ。

「さすがです、一柳さん」
 意図せず褒められもして、功至は機嫌よく会社を出ることになった。

 千幸は、良一の言葉を思い出していた。良一と食事に行く時だった。『何が食べたい?』と聞かれ『何でもいい』と答えると『何でもいいって一番困るんだよなぁ』と言われたことがあるのだ。功至に何が食べたいかと聞かれたらどう答えたらいいのだろうか。正直空腹ではあるが、功至の前では緊張で多く食べらないだろう、残すのも失礼だろうか。楽しみより不安でいっぱいだった。
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