ちょうどいいので結婚します
功至は千幸をよく理解していた。恋愛感情を伴うこと以外では。
会社を出ると、千幸はビル風に身を縮めていた。
「日が落ちると、また一段と寒いですね。温かいもの、鍋でもどうでしょう」
功至は千幸の返事を待つ短い間に、千幸は他人と鍋をつつくのを嫌がるタイプでは無かったよなと思い返していた。
千幸は功至が食事を提案したことにホッとしていた。鍋なら量も調整出来る。
「いいですね。お鍋大好きです。そうだ、うちのお鍋も美味しいんですよ。……食べに来ますか? あ、でも遅くなっちゃいますね」
「え、家ですか?」
「そうです」
功至は千幸の言葉を反芻し、時間、状況を考え深読みした。動揺し是非と言いたいところだったが思いとどまることがあった。……彼女、実家暮らしではないか。社長の顔が浮かび気持ちは落ち着いていった。千幸の何の疑いのない曇りなき瞳にくらくらした。
「せっかくですが。結婚の挨拶を終えてからの方がいいと思いますので。今日のところは清く」
「清く?」
功至はしまったという顔を取り繕って微笑みを作った。
「いえ、《《すごく》》です。残念ですが、次回にでも。先に二人で話すこともありますので」
千幸は功至のちゃんと考えてくれているだろう気配りにますます好きにならずにはいられなかった。思ったよりずっと、素敵な人だと思っていた。
二人は店に着くまで、鍋の具を何が好きかを真顔で語り合った。先に二人で話すこととはこれではないのだと功至は自分の至らなさに心の中で言い訳をしていた。
会社を出ると、千幸はビル風に身を縮めていた。
「日が落ちると、また一段と寒いですね。温かいもの、鍋でもどうでしょう」
功至は千幸の返事を待つ短い間に、千幸は他人と鍋をつつくのを嫌がるタイプでは無かったよなと思い返していた。
千幸は功至が食事を提案したことにホッとしていた。鍋なら量も調整出来る。
「いいですね。お鍋大好きです。そうだ、うちのお鍋も美味しいんですよ。……食べに来ますか? あ、でも遅くなっちゃいますね」
「え、家ですか?」
「そうです」
功至は千幸の言葉を反芻し、時間、状況を考え深読みした。動揺し是非と言いたいところだったが思いとどまることがあった。……彼女、実家暮らしではないか。社長の顔が浮かび気持ちは落ち着いていった。千幸の何の疑いのない曇りなき瞳にくらくらした。
「せっかくですが。結婚の挨拶を終えてからの方がいいと思いますので。今日のところは清く」
「清く?」
功至はしまったという顔を取り繕って微笑みを作った。
「いえ、《《すごく》》です。残念ですが、次回にでも。先に二人で話すこともありますので」
千幸は功至のちゃんと考えてくれているだろう気配りにますます好きにならずにはいられなかった。思ったよりずっと、素敵な人だと思っていた。
二人は店に着くまで、鍋の具を何が好きかを真顔で語り合った。先に二人で話すこととはこれではないのだと功至は自分の至らなさに心の中で言い訳をしていた。