ちょうどいいので結婚します
鍋は無難に寄せ鍋で落ち着いた。千幸は功至の前で食事が出来るか不安に思っていたが、出汁の香りが食欲をそそった。
「美味しそう」
「本当。いつも肉ばっかだけど魚もいいなあ」
「お魚も美味しいですよ。淡白な白身にすだちの酸味が……」
千幸は自分のとんすいにすだちを絞った。反対の手で汁が飛ばないように囲いをつくっていたが、その間をぬって、汁が千幸の顔へ飛んでしまった。
「痛っ」
千幸は顔をしかめ、果汁が入った片目をきつく瞑った。
「大丈夫ですか? ああ、痛いですよね。こっち、見せて下さい」
畳の個室だったので、千幸は膝立ちでテーブルの前にいる功至の方へと顔を寄せた。功至も同じようにして千幸の目をよく見ようとのぞきこんだ。
すだちの果汁は何度か瞬きを繰り返すうちに馴染んで消えてしまった。
功至の手が千幸の頬に添えられ、指は下まぶたを少し下げていた。千幸の上を向いていた眼球が、正面に下りてきて功至の瞳を捕えると、急に距離を意識した。
功至の視線が、千幸の瞳から、唇に移動し、千幸は恥ずかしさからもう一度強く目を閉じた。今度は両目だった。
功至はここで目を閉じるかとキスをしたい衝動的にかられたが、目が痛いのだから目を閉じるのは違う意味だと思い直し、本来の目的を思い出した。千幸を怖がらせてはいけない。我慢ならない男だとは思われたくなかった。何より、鍋の真上、蒸気で蒸されていた。
グツグツと煮える鍋の上に二人身を乗り出して、見つめあった姿は滑稽で、功至は冷静になると一人赤面した。
「美味しそう」
「本当。いつも肉ばっかだけど魚もいいなあ」
「お魚も美味しいですよ。淡白な白身にすだちの酸味が……」
千幸は自分のとんすいにすだちを絞った。反対の手で汁が飛ばないように囲いをつくっていたが、その間をぬって、汁が千幸の顔へ飛んでしまった。
「痛っ」
千幸は顔をしかめ、果汁が入った片目をきつく瞑った。
「大丈夫ですか? ああ、痛いですよね。こっち、見せて下さい」
畳の個室だったので、千幸は膝立ちでテーブルの前にいる功至の方へと顔を寄せた。功至も同じようにして千幸の目をよく見ようとのぞきこんだ。
すだちの果汁は何度か瞬きを繰り返すうちに馴染んで消えてしまった。
功至の手が千幸の頬に添えられ、指は下まぶたを少し下げていた。千幸の上を向いていた眼球が、正面に下りてきて功至の瞳を捕えると、急に距離を意識した。
功至の視線が、千幸の瞳から、唇に移動し、千幸は恥ずかしさからもう一度強く目を閉じた。今度は両目だった。
功至はここで目を閉じるかとキスをしたい衝動的にかられたが、目が痛いのだから目を閉じるのは違う意味だと思い直し、本来の目的を思い出した。千幸を怖がらせてはいけない。我慢ならない男だとは思われたくなかった。何より、鍋の真上、蒸気で蒸されていた。
グツグツと煮える鍋の上に二人身を乗り出して、見つめあった姿は滑稽で、功至は冷静になると一人赤面した。