ちょうどいいので結婚します
 ──小宮山千幸は、男性が苦手だった。男性というだけで、なぜか身構えてしまうのだ。

元々大人しい性格だが、相手が男性であるとそれに拍車がかかる。そんな様子であったため、今まで恋をしても片思いで終わっていた。時折、相手から言い寄られて付き合うこともあったが、うまくいかなかった。

結局、想っても想われてもうまくいかなかったのだ。

職場においては、社長の娘として経理部に入社し、生真面目な性格は細かい厳しいと取られた。部署内でも他の社員とは距離を取られ、疎ましがられているのはわかっていた。
わかっていたが、だからといってどうしていいかはわからなかったのだ。

そんな中、仕事のステップアップのために始めた勉強は千幸にぴったりとはまったのだった。大人になってからの勉強は自分の意思であり、楽しいものだった。もっと、もっとといつしか公認会計士を目指そうと思っていた。

親の存在に甘んじることなくもっと早く自分の将来を見据えることが出来ていたら、今の年ならいくつかの試験に通るくらいはしていたかもしれないのに。自分の考えのなさに情けなく思っていた。

そして、千幸が今になって後悔したことを、功至はやり遂げていた。学生時代には資格を取得し監査法人で実務経験を積み、2年前に会社へやってきた。千幸は一柳功至のことを尊敬していた。自分より一つ年下ながら将来を見通し、近々独立するのではと囁かれている。自分が後悔した道筋を歩んでいる人に憧れずにはいられなかった。
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