ちょうどいいので結婚します
「ああ、そうですか。じゃあ、今度は飲みましょう。ゆっくり話せて飲めるとなると、俺の家でもいいですか?」

 千幸が二人で外食をしたのはここ最近では良一だ。功至が二人を見かけたのは一度や二度ではない。顔を赤らめるほど。一体、どんな迷惑をかけたのだろうか。そう思うと胸に黒い感情がせり上がってきた。そして、つい自分の家と言ってしまったのだ。

「はい。嬉しい、一柳さんのお家行ってみたかったんです」

 千幸は純粋に思った事を口にし、顔が綻んだ。何の疑いもない目を向け微笑まれた功至は罪悪感で胸には傷んだが、微かな不安を埋めるには、早く良一よりもっと千幸と仲良くなりたかった。婚約しているんだし。心の中で誰にともなく言い訳をした。

 千幸を駅まで送ると、功至はもう一度言い訳をした。そうだ、まずは一緒に住むとなると俺の部屋を見て貰わないといけないじゃないか。

 空を仰いで深いため息を吐いた。俺との食事が終わってホッとしてるあの子にどうしろと言うんだよ。あの男にはあんな自然な笑顔を向けて、躊躇なく会話をしていたのに。……焦るな、焦るな。まだこれからだ。

 千幸はどんな酒が好きなのだろうか。……聞こう。一つ、メッセージを送る口実が出来てまたホッとした。

「何だよ、迷惑って。何したんだよ」

 今日だって、飲んだら良かったのに。功至は言いようのない気持ちだった。
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