ちょうどいいので結婚します
 進藤咲由美(さゆみ)から電話がかかってきたのは翌日の事だった。

 咲由美は、今中国にいるのだ。12月半ばには一度帰って来ると聞いていた。

『千幸、良一から聞いたんだけど』
 咲由美は小さい頃から良一の事を“お兄ちゃん”と呼ばずに呼び捨てにしていた。
「さゆー!」
 千幸が電話越しに抱きつくと
『そんなことだと思った』
 咲由美は呆れたように電話口で笑った。事と次第は良一が話しておいたらしい。

『はぁ、でも良かったね。ちーは結婚出来る可能性低いと思ってたんだよね。もううちの良一に引き取らせようかとまで考えてたんだよ?』
「え、ヤだよ」
『あっははは! 良一に悪いじゃなくて、嫌ってのがちーらしい』
 咲由美は豪快に笑った。

「だって、私は結婚は別にどっちでも良かったの。でも、相手が一柳さんだから受けたの。他の人だったら受けなかったよ」
『まぁね、でもちーの両親は絶対に結婚させたと思うけど。で、そんな好きな人との結婚話が親経由で来るっていうミラクルが起きたってのに、どうしたのよ』

 咲由美は《《どうしてるのか》》わかってるからこそ電話をしてきたのだ。

「ねえ、さゆ、私って変じゃない? 上手くも話せないし。見た目だって、地味だし。急に彼には私がどう見えてるか気になって、恥ずかしくなってきちゃって。全部丸々変えたい気分なの!」
「なるほど。彼の為に可愛くなりたい。つまりはそういう事ね?」

 千幸は見えるはずもないのに頷く。そして、佐由美もそれが見えたかのように唸った。

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