ちょうどいいので結婚します
 どんな酒が好きか。功至はそれだけのメッセージをいつ送るか悩み、約束の前日に送ることを決めた。

 それまでに会社で話す機会があれば声を掛けたっていいじゃないか。いつから千幸に対してこんなにも保守的になったのだろうか。仕事の合間、千幸を見たが、変わらず胸が痛くなるほど魅力的に映った。だが、千幸と目が合うこともなく時間は過ぎて行った。次の約束がなければ、自分と千幸が結婚の約束をしているとは自分でさえ信じ難かった。

 ――金曜日

 珍しく定時に帰って行く千幸の背中を見送ると、ついに職場で聞く機会を完全に失った。夜にでもメッセージを送ることにした。重苦しい気持ちもあるが、明日が楽しみな気持ちもあった。

 そうか、と功至は思い直した。今メッセージを送っておけば、帰るまでに千幸から返事があるかもしれないと思ったのだ。そしたら、帰りに買って帰れる。功至はその場で千幸にメッセージを送り、残りの仕事にとりかかった。

 仕事が終わり、会社を出る頃、千幸からの返信があるかスマホを確認したが送ったメッセージには既読さえついていなかった。がっかりした気持ちでスマホを鞄にしまうと、酒を買う予定も無くなり、何か食べて帰ろうかと駅には向かわずに繁華街へと足を向けた。女性を家に呼ぶのは久しぶりでそれが意中の人であればどうもてなすか、多少浮かれた気持ちでいた。功至の部屋は殺風景だった。

 花……でも飾るか。

 
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