ちょうどいいので結婚します
 結局、功至は花も買わずに帰った。

 翌日。朝から7回目の掃除機をかけ終わると、そっけない返事をしてしまったメッセージを読み返した。

「大人げないな、俺は……」

 だけど、あれはないんじゃないか、と自分の不機嫌を正当化しようと頭の中で言い訳をした。俺は、婚約者だ。そうだよな、そうだよな。

「そうだと言ってくれよ、千幸(ちゅき)ちゃん」

 あっちの男にあの態度で、俺にはよそよそしくて、今日もそんなんだったら一言くらい咎める言葉を言ってもいいんじゃないか、他の男と二人で会うのはどうかなって言ってもいいんじゃないか。だって、俺は婚約者だし。と子供じみた思考に囚われた。

「全く、何の免罪符だよ」
 婚約者だ。だけどそれを理由に相手を束縛するほど何もかも許された関係では無かった。千幸との関係に“婚約者”という肩書以外の進展は何も無かった。

 功至はこの日一番長いため息を吐くと気持ちを切り替えよう努力した。窓という窓を開け放ち、自分のため息で淀んだ空気を入れ替えると買い物に行くことにした。

 行先は花屋とスーパーだ。スーパーは二人で買い出しというイベントも捨てがたかったが、なるべく二人きりになれる時間を優先したかった。千幸の食べ物の好みは二年間で培った洞察力である程度は把握していた。

 楽しみで、不安で、色んな感情で千幸を出迎えることになりそうだった。


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