ちょうどいいので結婚します
 進藤良一は千幸が普通に話せる数少ない男性の一人だった。身内以外では唯一のと言っていいかもしれない。

良一は友人の兄で、まだ異性など意識していなかった幼少期からの付き合いだからという理由だ。身内と何ら変わらない存在ということだ。この日も仕事帰りに良一と落ち合うと、すぐにいつもの報告をした。

他に話せる人がいないので、すべて良一にぶつけることになるのだ。

「良ちゃん、聞いて、聞いて! この前ね、一柳さんがね、チョコレートをくれたの」
「へえ、ちーにだけ? 」
「まさか。皆に。優しくない? でね、私つい『これ好きなんです』って言っちゃったの。変よね、変だったよね?」
「いや、全然大丈夫。チョコも返しも問題無し」
「そう?」
千幸は心配そうにチラリと良一を見上げたが、良一は呆れた視線を返しただけだった。千幸は功至のことで頭がいっぱいなのか、良一が呆れていることなど気づくことはなかった。

「でね、でね、この後がすごいの。一柳さんね、後日、本当に買ってきてくれたの」
どんなすごいことかと聞いていた良一は、
「良かったね」
と、いつものように感情のこもらない声でそう言った。千幸はいつもこの調子なのだ。

一柳さんって、本当に優しいの。恍惚とした表情で褒め称えるものだから、良一ももう何も言わないことにした。
「そんなに好きなら、告白でもすりゃいいだろう」
千幸の顔は燃え上がるような赤に染まった。この様子で、好きじゃないの、といつものように言うのだ。
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