ちょうどいいので結婚します
 二人の激しい動悸息切れが落ち着いた頃
「さて、夕食の時間までまだまだですし、先に打ち合わせしましょうか」
 時刻はまだお茶の時間にもなっていなかった。
「はい」
「まずはだいたいの日にちを決めましょうか。あと挙式の式場や入籍日、新居など小宮山さんの希望を教えて下さい」

 千幸は次回話し合おうと言われていたのを思い出した。功至とプライベートで会うこと、家に行くこと、功至に自分がどうみられるかばかりに気を取られ、功至が『希望を挙げておいて下さい』と言っていたのを今の今まで《《忘れていたのだ》》。何をしているのだろうそのために会ったというのに。
 
「すみません」
 功至に会えることに浮かれてばかりで。情けなくてそれしか言えなかった。

「あ、いえ。今から一緒にどんな流れか見てみましょうか。そうこうしてるうちに小宮山さんの希むかたちが見えて来るかもしれませんし」
 功至はそう言って立ち上がった。

 口調は優しいものだったが、千幸の目には一瞬功至の顔が明らかに気分を害したように見えた。タブレットを持って千幸の横に座った時はもういつもの優しい表情だった。

「ごめんなさい、一柳さん。今週は……」
 何て言えば良いのだろうか。何と言っても言い訳にしかならないことは千幸にもわかっていた。

「いえいえ。はは、忙しかったですか」
 そう言う功至の声が固く感じた。
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