ちょうどいいので結婚します
 功至は自然に同居を提案できてにんまりしていたが、千幸の反応は悪く感じた。

「いえ、別に、ここじゃなくて小宮山さんの好きな場所に新居を構えてもいいです。一先ず、仮でここという選択肢を……」
 嫌だったのかと慌てて付け加えた。
「ここがいいです。もちろん、一柳さんが嫌でなければですが」
 不意に俯いていた千幸が顔を上げた。千幸の左肩と功至の右肩が軽く触れ合うと、視線を合わせたまま時を止めた。

 功至はほぼ突発的に自分の唇を千幸の唇に重ねていた。それは、唇を押し付けるだけの軽いものだったが、千幸に感情を伝えるには十分な行動だったようだ。

「嬉しい。俺は、嬉しいです」
 千幸は真っ赤になったものの笑顔を見せた。

「私も、嬉しかったです。さっきの何でも自由に使っていいと言って下さったの。私の家でもあるって言われたみたいで」
「もちろんです。今日からあなたの家です!」
「ふふ、今日からですか、それはまた早いですね」
「じゃあ、他の部屋も案内しますから、どうぞ!」

 功至は言ってから気が付いた。10尾のししゃもが連なった串を千幸が持っていることを。

「えー……と、後で案内しますね」
「はい。ありがとうございます」

 功至はどの部屋も念入りに掃除しておいて良かったと思った。それから、ししゃもに合う酒は買っただろうか、頭の中で確認した。……ワインは、違うよな。

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