ちょうどいいので結婚します
「そういうんじゃないの。近くで少し見られたら幸せっていうか……憧れているだけで」
千幸は赤くなった頬に手を当ててぶんぶんと首を振った
「そんなこと言って、向こうが結婚でもしたらどうするんだよ」
「……結婚……そうか、そうよね。きっと奥様になる方は幸せでしょうね」

明らかに傷ついた顔で千幸が言うもので良一は何とかしてやりたい気持ちになった。

「まあな。まだ若いし結婚はもう少し先かもな」
と、見兼ねて、あくまで一般論として気休めに慰めた。

「でも恋人はいらっしゃるし、遠くない未来かもしれない」
「……恋人、いるのか？」
「彼が恋人の有無を言及したわけじゃないけど、いつも二人でいるのをよく見かける女性がいるの。多分、恋人なんじゃないかな」

最初から諦めたような千幸はすごい綺麗な人なんだもんと呟いた。

「ちーだって、もう少し自分を出して、同僚なんだから食事くらいは誘ったらいいだろう」
「ダメ。ダメダメ。一柳さんの前でご飯なんて食べられないよ」

そう言うと良一は肩をすくめた。こうして話を聞いてやることくらいしか出来ないものだろうかと、不器用な友人を前に考えていた。

　　千幸だって十分に容姿には恵まれていた。だだ、この恋愛に奥手すぎるところと、そんなことは心を許した人にしか見せないのが、敗因なことは良一にはわかっていた。
「慣れじゃないのかねえ」
　良一はもどかしい気持ちでうーんと唸った。
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