ちょうどいいので結婚します
 どのくらいの時間座り込んでいただろうか。
 
 メッセージが届いた通知音に顔をあげた。
「あ……」
 ハッとしてメッセージのポップアップを確認する。……千幸からだった。

 ポップアップの小さなウィンドウには今日のお礼から始まる、よそよそしさを感じさせるメッセージが見えた。

 功至はため息を吐くと、メッセージ全体が表示されるようにタップした。メッセージを全部読み終わると、スマホをつかんだまま立ち上がった。

「そうだ、俺は婚約者なんだ。こうなりゃ婚約者という立場をふんだんに使ってやる。……負けてたまるか」
 怒りにも似たやる気が出てきて強い気持ちで言い放った。千幸からのメッセージがそうさせた。

『今日はお邪魔しました。何も調べてもいなくて申し訳ありませんでした。功至さんに甘えてしまいました。なのに功至さんが優しくしてくださってとても嬉しかったです。部屋も見せていただいてありがとうございました。とても素敵なお家でした。一緒に住めること、楽しみにしています。次回はもう少し詰めてお話ができるように下調べをしっかりして挑みたいと思います。お酒も美味しかったです。今度はそちらに泊まってもいいですか? ありがとうございました』

 長いメッセージだった。“功至さん”と初めて呼ばれたこと、“優しい”と言われたこと、“楽しみ”そして、“泊まってもいいですか”

 千幸は実家暮らしである。功至の考えでは男の家に泊まるなど論外であるだろう。だが、相手が『婚約者(功至)』なら許される。その立場をフルに使うつもりだった。
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